イノベーターズモード presented by キャリナビ北海道
File No10

有限会社 植物育種研究所
取締役社長 農学博士 岡本 大作 氏

黄色いトマト・真っ青なトマト・縞模様のトマトをご存知だろうか?

スーパーに行けば赤いトマトに、茶色い皮の玉ねぎ。
それが当たり前の光景である。

りんごやバナナを品種で選ぶことはあっても、玉ねぎや人参を品種で
選ぶことはないだろう。

野菜にもたくさんの品種があり、味、香り、形…。それぞれに特徴がある。

「消費者がニーズに合わせて選択できるようにしたい」との想いで、大手種苗会社でのサラリーマン生活に終止符を打ち、植物育種研究所を立ち上げた岡本氏。

こだわりを追及し、研究を重ね、その結果、健康機能性を飛躍的に高めた
「北海道栗山町の健康玉ねぎ さらさらレッド」を誕生させた。

本当に良い物を創りたい!!という思いから、科学、歴史そして自然環境と幅広い側面から植物への取り組みをしている岡本氏。

北海道から全国へ、そして世界へ。
多様なニーズに応えられるこだわりの新品種開発に岡本氏は挑戦している。

*********************************************************************

【野菜にも多様性がある!様々なニーズに応えられる品種開発を志しての起業】

--------ご出身はどちらですか? >>岡本氏


広島県です。小さい頃しか住んでいないのですが。出身は広島県で大阪、兵庫、島根などを移り住み、 西日本で育ちました。
北海道へは北大農学部への進学にあたって、初めてやって来ました。


---------もともと農業に興味があり農学部に入られたのですか? >>岡本氏


農業というよりは農芸化学に興味がありました。
遺伝子組み換えなど先端のバイオ・テクノロジーに興味があり、大学でも遺伝子組み換えの分子生物学を学び、 デンマークでも遺伝子組み換えの研究をしました。

---------北海道大学卒業後、デンマークへ国立植物土壌科学研究所の政府給費生として行かれていますね。
>>岡本氏


はい。コペンハーゲンに1年間いました。
私の全てのスタートがここにあると言った感じです。 物事の考え方や、仕事ばかりではない心の豊かさ、人との付き合い方も学びました。

国立の研究所にいたのですが、研究者としての考え方も教わりましたね。 1年間でしたが非常に勉強になりました。


---------デンマークは農芸化学が進んでいるのですか?
>>岡本氏


特別に進んでいるというわけではないですが、総合的な農業と言う意味では日本より進んでいると思いますね。

例えば、バイオエタノールやバイオマスが近頃日本で話題になっていますが、 デンマークでは私が留学している15年位前からバイオマスの研究が盛んに行われていました。

向こうにいる時は私もよく理解できなかったのですが、15年経ってやっと日本でも 認識されるようになりましたよね。
風車なども当時デンマークでは当然のようにあって風力発電が行われていました。

バイオマス、牛や豚の糞尿で発電するっていうのも日本では今やっと行われていますが向こうでは もう常識です。
特に環境への意識や技術を考えると向こうの方が進んでいるでしょうね。


---------卒業後に留学したということですが、就職は考えなかったのですか?
>>岡本氏

就職は留学前に決まっていました。会社から1年間の猶予をもらってデンマークに行き、 帰国してから就職しました。


---------どのような仕事をしている会社に就職されたのですか?
>>岡本氏

大手の種苗会社です。私は野菜の品種改良を担当しました。
今扱っている玉ねぎだけではなく、ニンジン・キャベツ・大根など色々な野菜を扱いました。


---------起業を意識されたのは?
>>岡本氏

結局、8年間サラリーマンとして勤めました。途中から独立したいなとは漠然と思い始めたのですが、 本格的に意識したのは辞める1、2年前からです。


---------起業したいと思い始めた理由はなんですか?
>>岡本氏

1つはもう少し専門分野の研究を突き詰めていきたいと思ったということ。
もう1つは大手企業ではなかなかできないもっとユニークなことをしたいと考え、独立しようと思いました。

---------会社を設立される前に、大学院で博士課程を取っていますね?
>>岡本氏

はい。会社を退職してから大学院に入りました。
最近は、社会人コースがあり、社会経験のある人は入りやすくなっていますから。

農業試験場などで研究をして論文を書き、博士課程を取りました。
大学院に入ると同時に会社設立の動きもスタートさせ、卒業が見えてきた頃に有限会社として登記しました。


---------起業のきっかけとなった、大手企業では実現できないこととは具体的にどういったことなのですか?
>>岡本氏


野菜の品種改良をやっているので、大きな会社であれば多くのシェアを取り、大量生産、 大量販売することが重要ですよね。マスのところを狙っていかなければなりません。

しかし、野菜はどれでもそうなのですが、例えばトマト1つにしても、 日本人であれば今は大玉かミニ玉の赤いトマトしか食べてないですよね。 ですが黄色いトマトや縞々のトマトも世の中にはあるのです。

玉ねぎにしても、ほとんどの日本人は茶色い皮の玉ねぎしかないと思っていますが、 赤い玉ねぎもあれば、白い玉ねぎもある。細長い玉ねぎも、平らに近い玉ねぎもあります。

世界にたくさんある種類の中で、1種類のものしか食べていない。
日本は流通が力を持っていますから規格が重要なのです。
本当はもっと種類があり、色んな選択肢があるのに…と私は思ったのです。
ジャガイモはだいぶ種類が認知され、ニーズに合わせて使われていますね。メークイン、北あかり…。
ですが、野菜はまだまだです。ニーズが多様化していく中で、それに応えられる本当にいいものを 造りたい、と思いました。

たくさん売れる、流通の規格に合う、というものだけではなくて。

---------自分で会社をつくることに不安はなかったですか?
>>岡本氏


不安はあまり無かったです。
弊社は他のバイオベンチャー企業とは違って、よそからの資本で大きくやっているとか、 お金を借りてやっているわけではありません。万一これがダメで潰れても、 お金を返さなければいけないということにはならないですから(笑)。


---------会社を作るときに1番苦労したことは?
>>岡本氏

確かに法律を分かるわけでもないし、経済の勉強をしていたわけでもないですからね。
でも今は、大学発ベンチャー企業が世の中に広まってきて、いろんな方が協力してくださり、 世話をしてくれます。
支援機関もたくさんありますから、会社設立時の専門的なことは随分助けていただきました。


【食卓まで行っても、うちが開発したものだと認識され、評価される。そんなブランド作りを。】

---------創業当初はどのような仕事をされていたのですか?
>>岡本氏

ご承知の通り品種改良というのはすぐにできるわけではなく、10年単位の時間が掛かるものです。
収入はありませんから、食べていくために野菜や花の苗を作りそれを売ったり、 海外から日本にまだ無いようなものを輸入して、種を卸したりしていました。

北海道の気候を活かして栽培できるヨーロッパの珍しい花です。 栗山町で契約農家に栽培を指導して管理をしてもらっています。

これらの仕事は食べていくための収益部門として続けています。


---------メインで岡本さんが取組みたいのはやはり品種改良ですね?
>>岡本氏

そうです。花の生産、販売もしながら、品種改良の研究開発を行っています。
今、取り組んでいる玉ねぎは一生が2年です。
植物の品種改良も、動物の交配と一緒で時間がかかります。
玉ねぎは一代で2年、5世代だと10年かかる計算になります。
結果が出るまでとても年月のかかる仕事ですよ。


---------何と何を組み合わせたらこうなるとの予測のもとに交配を行うのですか?
>>岡本氏

そうです。それが技術だということです。

味が特別違うもの、健康成分の高いもの、日持ちがするもの、などの目標を持って、交配させていきます。


---------最初に取り組まれたのは玉ねぎですか?
>>岡本氏

はい。
日本の市場で、生鮮野菜の生産量が1番多いのは何かご存知ですか??
1番は大根、2番はキャベツ。3番が玉ねぎで、この3つはダントツです。
玉ねぎの需要はとても多いんですよね。


----------玉ねぎに取り組まれた理由はなんだったのですか?
>>岡本氏

一つは、まだまだ改良の余地や可能性があるのではないかと思ったことです。

それに玉ねぎは北海道で日本の生産量の半分以上作っていますので、北海道でやるなら玉ねぎかなと思いました。

しかも玉ねぎは全世界で食べられている野菜です。

世界の生産量で言えば、玉ねぎはトマトに次いで2番目なのです。

ですから、もし玉ねぎで良いものが出来れば北海道だけではなく、世界で通用するなと思い玉ねぎに着目しました。


----------そんな中、さらさらレッドを創り上げたわけですね。
>>岡本氏

「健康」というコンセプトを持って開発しました。玉ねぎは健康にいいと言われていますが、 もっと健康に良いものがあればいいなと思って作りました。

玉ねぎの健康成分は研究で明らかになっています。ですが、世界中の玉ねぎを何百種類もかき集めて 分析してみたら、その成分がものすごく入っているものから、全く入っていないゼロというものもありました。
そういうものを一くくりにして、「玉ねぎは健康にいい」というのはちょっとおかしいなと思うんですよね。 玉ねぎの中でもばらばらで同じじゃないですから。

健康に良いと思っていたのに、実はその成分が入っていない、または調理の時に壊れているとなったら 意味が無いですよね。

それだったら 一定以上必ず健康成分が入っているもので、しかもおいしく食べられるものがあればいいなと 思って開発しました。


----------さらさらレッドを開発していく中で最も難しかったことはどのようなことですか?
>>岡本氏

やはり品種改良に年月もかかりますし、パーフェクトなものはありえないですから、 妥協とは言わないまでも、どの段階で商品化するかということですよね。

品種だけで差別化できるわけでもないですから、うまくそれを活かすような栽培もしてもらうという 苦労もあります。

さらに流通の問題もあります。
市場に出荷したからといって、初めてのものに誰が目をつけるかなんて分からないですよね。 誰も買ってくれなくて、とても安いものになってしまうかもしれない。
研究開発と商品化とは全く別で、それがとても苦心したところでもあります。


----------開発に関しては思い通りに進んだのですか?
>>岡本氏

私は現状でもまだ満足いくものだとは思っていないです。
まだまだ改良の余地がありますので、バージョンアップをして、より良くしていきたいですね。
味、健康成分、作りやすさ、病気への強さ…。突き詰めていくと限りがないのです。


----------今年10月から店頭販売も開始されましたね。
>>岡本氏

おかげさまで、テレビはじめ各メディアにも取り上げていただき、道内での販売は好調ですよ。
今年は、栗山で8件の農家さんと栽培契約を結び、約30トンを収穫しましたが、まだまだ少ないですから、 今後は増産していきたいですね。

栗山町も町興しの一環としてPR協力をしてくれています。
「栗山ブランド」の新たな特産品として確立できればな、と思っています。


----------札幌黄ルネッサンス事業という取り組みについて教えて頂きたいのですが?
>>岡本氏

「札幌黄」という玉ねぎは、日本で最初の玉ねぎです。
明治の最初に、アメリカから玉ねぎというものが入ってきた時に、 北海道の気候に合うように改良されて完成された品種です。

それが北海道中に広まり、空知黄や北見黄など様々な品種のもとになりました。

1番の特徴としては何よりも「美味しい」ということです。その代わり日持ちはあまり良くありません。 さらに、病気にも弱い、形も悪い、選別に手間が掛かる、作りにくいという欠点がたくさんあります。

そのため、生産量は少なく、今では日本でも10軒くらいの農家でしか作られていません。
テレビ番組などでも「幻のおいしい玉ねぎ」などと紹介されます。このままではなくなってしまいますよね。

ですから、私は札幌黄の美味しさは残して、病気に弱い、腐りやすい、形が悪いなどの弱点を改良して作りやすいものを 開発できたら、と思ったのです。それが「札幌黄ルネッサンス事業」です。

そこで、札幌市と一緒に札幌黄の血をメインに入れて、弱点を改良した品種を実際に作り、 仮に「札幌黄2世」と呼んでいます。

今年5、6軒の農家で作って頂き、30〜40トンほど収穫して倉庫に入っています。
これをどのように差別化商品として販売し、広めていくかということを、これから取り組んでいきます。

さらさらレッドも札幌黄もそうですが、ただ売るのではなく、町興しの一環や地域ブランドとして 盛り上げていきたいですね。

今まで北海道の農産物は売ったら終わりでした。
水産品も同じですね。昆布にしても、明太子にしても、全部本州の業者が加工して付加価値をつけて 儲けてしまいます。

そうではなくて地元で付加価値を高めて料理にしてもいいし、加工品を作ってもいいと思うし、 健康食品を作ってもいいと思うんですよね。
生産して終わりと丸投げするのではなく、自分も関わって付加価値を高めていきたいと思っています。


----------岡本さんの今後のビジョンを教えてください。
>>岡本氏

研究開発は自分のアイディアで私自身が行うものなので、大きく会社を発展させようとは考えていません。 しかし、私は種の開発だけで終る気はありません。

繰り返しになりますが、自分で付加価値を高めて、よりよい商品にして提供していきたいという想いも あります。ですから、加工、販売などのところは例えば別会社を作ってでもやっていきたいですね。 まだ今はその段階ではないですけどね(笑)。

私は野菜という食品の一番川上に携わっています。種というのは全てのスタートで、 その中に遺伝子が入っていて、野菜になり、料理になり、さらには健康食品などになったりするわけです。

そういう意味では、パソコンでいえばインテルの例がわかりやすいでしょうか。
エンドユーザーに直接提供する商品を作っているわけではないですが、パソコン本体にインテルのシールは 貼られていて、エンドユーザーにも名前は知られている。

その名前を聞けば「だからこのパソコンは良いものだ」とエンドユーザーに認識される。
そういう風になりたいですね。
食卓までいっても、うちが創ったものだと認識される、評価される。
そんな会社を目指していますし、そんな商品を開発していきたいと思っています。


【経営者となって物事の見方は変わった。当事者意識を持てば、人は成長できる!】

----------北海道のことについてお聞きしたいのですが、北海道は好きですか?
>>岡本氏

好きですよ。仕事はしやすいと思いますね。

正直な会社が多いという印象です。東京のように複雑なことも少ないですから。

私の仕事に関しては、バイオ研究の仲間も多いですし、何よりも実際生産地の中にいて仕事をすると いうのはすごいメリットです。

契約農家も私が毎日見に行ける距離にあります。


-------では北海道のよくないところはどのようなことですか?
>>岡本氏

一番は競争心がなく、依存体質だということですね。


----------その原因はなんだと思いますか?
>>岡本氏

歴史的なこともあると思いますし、道民の気質もあるかもしれません。 一番は、それでもやってくることができたということではないでしょうか。

農業に関しても、ただ言われたものだけを大量に作って売るだけで、 十分やっていけたからなのでしょうね。


----------北海道の農業に関してよくない部分は目につきますか?
>>岡本氏

そうですね。新しい物を創りづらいという空気はあるかもしれませんね。
本当にいいものを作っても、それが適正に評価されて流通されなければ、 生産者の意識もモチベーションも上がらないですよね。

北海道はまだまだそういう部分があると思います。
これから時代は変わっていくと思いますし、我々が変えていくものだと思っていますけどね。


----------ありがとうございました。
最後に、このサイトではイノベーターたちから若者へ、というメッセージを頂いています。

>>岡本氏

うまく言えるかわかりませんけど(笑)。
私は、独立して自分の力で稼ぐようになりました。そうすると、食べていかなければいけないので、 全部自分の責任になるんですよね。

私もサラリーマン時代は、あまり当事者意識を持って仕事をしていなかったように思います。 会社から指示されることも、上司から怒られることも、不条理なことばかりだと当時は思っていました。

でも、全てのことは自分のためだ、自分に関係することだという意識を持って生きられたら、 素晴らしいと思います。
自分が社長になったつもりで考えてみたり、なぜこれをやらなければいけないのかといつも考えてみたりする といいと思います。

私は自分が経営者になって、ものの見方や当事者意識が全く変わりました。

例えば、新聞を読むにしても、以前はどうでもよかった北海道の予算一つ取っても、 自分にどのように関係してくるのかを考えるようになりましたし、 いろいろな記事が興味・関心の対象となりました。

そうすると、何でも吸収しますし、吸収の度合いも全く違ってきます。


仕事でも、「やらされている」という気持ちでいる限り何も身に付かないですよ。
自分のために、自分のことだ、という意識を持って、日々働き、生きていくことができれば、 本当に成長していけると思います!


*******************************************************************

★取材を終えて

「研究は自分のアイディアで行なうものだから、そこを会社として大きくしていこうとは思っていない。」と話す岡本氏。

画一化された商品を大量に作り、販売することに違和感を持ち、独立の道を選んだ氏の気持ちの読み取れる言葉だ。
本当にいいもの、多様なニーズに応えられるものを創り、消費者に届けたいという強い想いを感じた。
インテルを引き合いに出し、「エンドユーザーまで行っても、うちの創ったものだと認識されるものを創りたい」という言葉は印象的だった。

饒舌に、時に語気を強めて玉ねぎについて熱く語る岡本氏からは、 玉ねぎに対する愛情を感じずにはいられなかった。自らが開発し、生産、販売まで関わるひと玉ひと玉に 心を込める熱い思いを感じた。

多くの人にとって、岡本氏のように本当に好きなことを仕事にするのは難しいことかもしれない。 しかし、岡本氏が最後に語った「当事者意識を持って日々の仕事に取り組む」ということは、 「仕事を好きになる」「仕事を楽しむ」ことの最初の条件なのかもしれない。

*******************************************************************
★プロフィール

昭和43年 広島県生まれ

平成3年  北海道大学 農学部農芸化学科卒業

平成3年  デンマーク国立植物土壌科学研究所(H3-H4)デンマーク政府給費生

平成4年  民間会社(H4-H12)

平成12年 北海道大学大学院 農学研究科応用生命科学専攻博士課程

平成12年 独立行政法人北海道農業研究センター 講習生および共同研究

平成15年 有限会社植物育種研究所 設立

平成17年 学位取得(農学博士 北海道大学)

*******************************************************************

★関連ウェブサイト

有限会社 植物育種研究所
http://www.ikushu.com/

さらさらレッド
http://www.sarasara-red.com/index.php

▼HOME  ▼IsMとは  ▼インタビュー  ▼ご意見・ご感想   ▼運営会社  ▼プレスリリース  ▼北海道の求人情報  ▼札幌の求人情報